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福島地方裁判所 昭和62年(行ウ)3号 判決 1993年5月24日

福島県双葉郡大熊町大字熊字新町一七六番地の一

旧名称

医療法人双葉病院

原告

医療法人博文会

右代表者理事長

鈴木市郎

右訴訟代理人弁護士

戸田満弘

舟木義男

福島県相馬市中村字曲田九二番地の二

被告

相馬税務署長 目黒宏

右指定代理人

中絛隆二

阿部洋一

菊地隆雄

芳見孝行

齋藤正昭

久城博

右当事者間の法人税更正処分等取消請求事件について、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(原告の請求の趣旨)

被告が原告に対してした次の処分を取り消す。

一  昭和四八年二月六日付でされた昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度以後の法人税の青色申告の承認の取消処分

二  昭和四八年二月七日付でされた次の処分

1  昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日まで、昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日まで(但し、本税四三万四七〇〇円、加算税二三万三八〇〇円に関する部分は除く。)及び昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日まで(但し、本税二万六六〇〇円、に関する部分は除く。)事業年度の法人税の各更正処分並びに重加算税の各賦課決定処分

2  昭和四五年四月一日から昭和四六年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分

(原告の請求の原因)

一  確定申告から審査請求に対する裁決に至るまでの経過

1  原告は、医療業を営む法人であるが、昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度(以下「四三年三月期」という。)、昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度(以下「四四年三月期」という。)、昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日までの事業年度(以下「四五年三月期」という。)及び昭和四五年四月一日から昭和四六年三月三一日までの事業年度(以下「四六年三月期」という。)の青色申告の法人税確定申告に次のとおり記載して、それぞれ法定の申告期限までに申告をした。

<省略>

2  その後、原告は、昭和四六年一二月二三日に四五年三月期及び四六年三月期について、次のとおり修正申告した。

<省略>

3  被告は、これに対し、昭和四六年一二月二四日付けで四五年三月期について過少申告加算税の額を一万三五〇〇円、四六年三月期について過少申告加算税の額を九万五〇〇〇円、重加算税の額を八万三四〇〇円とする賦課決定処分をした。

4  更に、被告は、昭和四八年二月六日付で、四三年三月期以後の法人税の青色申告の承認の取消処分をし、昭和四八年二月七日付けで、四三年三月期、四四年三月期、四四年三月期及び四五年三月期について、それぞれ、次のとおり各更正処分及び加算税の賦課決定処分をした。

更正処分

<省略>

賦課決定処分

<省略>

5  原告は、昭和四八年二月六日付及び同月七日付のこれらの処分を不服として昭和四八年二月二六日に異議申立てをしたが、異議申立て後三か月を経過しても、なお異議決定がなされないので、異議決定を経ないで同年一二月二七日に仙台国税不服審判所に対し、審査請求をした。

仙台国税不服審判所は、昭和六一年一二月二五日、この審査請求につき、次のとおり、裁決した。右裁決書は、昭和六二年二月一九日、原告に送達された。

《主文》

一 昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度以後の法人税の青色申告の認証の取消処分に対する審査請求を棄却する。

二 昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分並びに重加算税の賦課決定処分に対する審査請求を棄却する。

三 昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分の一部並びに重加算税の賦課決定処分の一部を取り消す。

四 昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分の一部を取り消し、重加算税の賦課決定処分に対する審査請求を棄却する。

五 昭和四五年四月一日から昭和四六年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分に対する審査請求を棄却する。

二 本件更正処分等の違法事由

1  原告の各決算期の総所得金額は、原告が申告(修正申告を含む)したとおりであって、これを否認した更正決定は事実の認定に違法がある。また、これを前提にしててされた賦課決定処分も違法である。

2  また、昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度以降の法人税の青色申告の承認の取消処分は、法人税法一二七条一項三号に記載する帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる担当の理由があることに該当する事実がないにも拘わらず、なされたものであり、事実誤認の違法がある。

(被告の答弁)

第一本件課税処分の経緯

一  青色申告承認の取消処分の経緯について

原告の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月三一日までの事業年度(四三年三月期)以後の法人税の青色申告承認の取消処分の経緯は、次のとおりである。

<省略>

二  課税処分の経緯について

原告の四三年三月期、昭和四三年四月一日から同四四年三月三一日までの事業年度(四四年三月期)、同四四年四月一日から同四五年三月三一日までの事業年度(四五年三月期)及び同四五年四月一日から同四六年三月三一日までの事業年度(四六年三月期)の法人税の確定申告等に係る課税の経緯は、次のとおりである。

(課税の経緯一覧表)

1  四三年三月期

<省略>

2  四四年三月期

<省略>

3  四五年三月期

<省略>

<省略>

4  四六年三月期

<省略>

<省略>

第二本件更正処分の内訳は次のとおりである。

1 四三年三月期

<省略>

2 四四年三月期

<省略>

3 四五年三月期

<省略>

<省略>

4 四六年三月期

<省略>

<省略>

第三

一  架空医薬品の仕入の計上について

1 被告が、本件更正処分について、医薬品仕入の架空計上であるとして損金算入を否認した金額の内訳は次のとおりである。

<省略>

原告が仕入れたとして計上した医薬品仕入金額は、いずれも架空の取引を計上したものである。すなわち、

2 鈴木市郎が現金問屋から仕入れたとする四三年三月期における医薬品の仕入金額六七六万二三七二円について

被告は、<1>右仕入金額は、原告備付けの総勘定元帳、薬品仕入帳及び経費明細帳のいずれにも記載がなく、鈴木市郎が作成した決算メモにその記載があるだけであること、<2>その仕入及び代金支払の事実を証する納品書、請求書、領収書の証憑もないこと、<3>鈴木市郎が現金問屋に支払ったとする代金の一部がそのまま鈴木市郎個人に帰属する日興證券福島支店の仮名(佐藤一郎名義及び山田正吾名義)口座に入金されていること、<4>鈴木市郎が査察官に対して架空の薬剤費の計上をした事実を供述していること等の事実から、架空の薬品の仕入れを計上したものと認定した。

3 東京衛材株式会社及び三東薬品商会(以下「東京衛生材等」という。)からの医薬品の仕入金額について

被告は原告が東京衛材等から医薬品を購入したとして計上した仕入金額についても、<1>右金額を計上した時点において東京衛材等は全く存在していないこと(被告が所在確認調査を行ったところ、東京衛材等は昭和三三年に設立され、納品書、請求書、領収書に記載された所在地において粉末ジュースを販売していたが、昭和三六年ごろ倒産し、その後医薬品の販売はもちろん一切の営業は行っていないこと、東京衛材等が当時(倒産前に)使用していた納品書、領収書の様式は、原告が保管していた東京衛材名義のそれとは全く異なっていること、三東薬品についても、納品書、請求書、領収書に記載されている所在地に三東薬品なるものは存在したことがなく、代表の千葉俊夫についても該当者が見当たらず、全く架空の存在であることが判明した。)、<2>仕入計上の基となった東京衛材等の納品書、領収書は、鈴木市郎ら原告側が日付、品名、数量及び金額等を記載して作成したものであること、<3>鈴木市郎が医薬品の現金決済に必要な資金を送金するために開設したとする第一勧業銀行神田駅前支店の三東薬品商会代表千葉俊夫名義の普通預金口座は、三東薬品から医薬品の仕入があったかのごとく仮装するため鈴木市郎が設定したものと認められたこと、<4>原告の仕入帳に記入された東京衛材等と原告との取引内容は、通常の現金問屋との取引形態とは著しく異なるものである(原告の仕入帳の記載内容によれば、代金の決済は、商品が納入されてから約一か月後におこなわれたことになっているが、一般に、現金問屋は、現金と引換えに医薬品を販売しているものである。また、原告の仕入帳によれば、原告と東京衛材等との取引は、薬事法により一般薬と異なる譲渡手続及びその罰則まで規定されている劇薬が仕入商品の大半を占めている。)こと等の事実から、架空の医薬品の仕入を計上したものと認定した。

二  医薬品仕入の認容について

被告は、四三年三月期に係る更正処分において、架空の医薬品の仕入を否認したが、結果として四三年三月期における薬剤費比率が他年度に比して低率となること、実際に仕入れている医薬品の計上漏れが確認されたこと等理由により、四四年三月期の薬剤費比率を基に医薬品の仕入として一九八万二一五八円を認容した。

三  賄材料費等について

原告が計上した四三年三月期の賄材料費等(医薬品仕入以外の経費)の四三五万円は、架空の経費を計上したものである。

被告は、右賄材料費等は、<1>原告の帳簿に記載がなく、また、その支払の事実を証する請求書、領収書等の証憑等の保存もないこと、<2>原告がこれらの費用を支払に充てたという吉川文子(鈴木市郎の妹)からの借入金三〇〇万円についても、借入れの事実を証する書類等がないだけでなく、吉川文子は、原告もしくは鈴木市郎に対する貸付の事実を否定していること等の事実から、架空の経費を計上していたものと認定したものである。

四  研修費(医師招聘費用)について

原告が計上した四三年三月期ないし四五年三月期の研修費は架空の経費である。

原告が四五年三月期に研修費(医師招聘費用)として支払をしたという四〇万円は、昭和四四年一二月一五日に福島相互銀行浪江支店の小林誠名義の鈴木市郎の仮名の口座に入金されているものである。

五  その他の項目について

1 益金加算額

(一) 原告は、患者が自己負担する入院料の未収金を貸倒金としたもののうち、その後回収した金額を貸倒回収金として益金に計上するべものを除外していたものである。

(二) 原告が、医薬品の架空仕入先として仮名の普通預金口座に入金していた普通預金の受取利息は、益金の額に計上すべきものである。

(三) 奨学金回収額は、従業員が看護学校に入学する際の貸付金(貸付の際、損金の経理をしている。)の返済額である。受入れリベートは、医薬品の仕入先からのものである。いずれも益金の額に計上すべきものを除外してたいものである。

2 四四年三月期の研修費については、その支出先及び支出目的が明らかでないことから、被告は、原告の損金算入を否認した。

3 四五年三月期の交際接待費については、その支払を証する証憑がないこと、旅費については、出張の事実がないことと、又は、業務に関係がないものであること、支払保険料については、原告の医薬品に係る保険料でないことから、被告は、原告の損金算入を否認した。

4 四六年三月期のその他の損金否認の理由

(一) 医薬品仕入額は、架空の三東薬品商会から仕入れたとする一四四万五一〇〇円と、株式会社泉器械店から購入した自動分包器の購入代金四九万五〇〇〇円(これは資産として計上すべきものである。)の合算額である。

(二) 賄材料費は、水増計上等をしたものである。

(三) 期末在庫薬品は、仕入の岩代薬品株式会社に預けていたヒルナミンであるが、期末在庫とし現存しており、たな卸資産として計上すべきものである。

(四) 機械売却益は、(一)の自動分包器の購入時に下取りに充当した古い器械の譲渡価格一〇万円とその器械の帳簿価額(未償却残高)との差額が計上漏れとなっていたものである。

第四結論

一  青色申告承認の取消処分について

原告が、四三年三月期において、架空の医薬品仕入を計上すること等により取引の一部を仮装して帳簿書類に記載したことは明らかであり、このことは法人税一二七条一項三号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その記載事項全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること。」に該当するから、右規定に基づき、原告の四三年三月期以後の法人税の青色申告の承認を取り消した被告の処分は適法である。

二  更正処分について

原告が、医薬品仕入の架空計上等により、本件各係争事業年度の法人税に係る所得金額を過少に申告したことは明らかであるから、被告のした本件各更正処分(審査裁決より取り消された部分は除く。)は適法である。

三  加算税の賦課決定処分について

原告は、本件各係争事業年度において、医療保険業により多額の利益を得ていたにもかかわらず、法人税を免れようと企て、架空の医療品仕入を計上する等、不正な方法により所得を秘匿したうえ、被告に対し、右各係争事業年度の虚偽の法人税の確定申告書を提出したものである。

このことは、国税通則法六八条一項に規定する「国税の課税標準等または税額等の計算の基礎になるべき事実の隠ぺいたは仮装」に該当するので、被告がした本件各重加算税の賦課決定処分(審査裁決により取り消された部分は除く。)は適法である。

また、右本更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎となっていなかったことについて、同法六五条二項(昭和五九年改正前のもの)に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項の規定に基づいてなされた本件各過少申告加算税の賦課決定処分(本件重加算税の賦課決定処分のうち、審査裁決により過少申告加算税の賦課決定処分とされた部分を含む。)は適法である。

(原告の反論)

一  原告は、査察期間中、再三再四、被告(査察官)に対し、カルテその他の資料で医薬品の使用量を調査すれば、正確な医薬品の使用料を把握することができるので、これを前提に更正処分をするのであれば受け容れる用意がある旨を、明らかにしていたが、被告は、これを一方的に拒絶し、根拠のない医薬品比率に依存して、四三年三月期の医薬品の仕入として一九八万二一五八円の認定をした。

二  そこで、原告は、自ら原告病院における実際の医薬品の使用量を調査することとし、四三年三月期のデフェクトン、プロビタン、ニューレプチル、ジアゼパム、アリメジン、レボメプロマジンの六種の医薬品(鈴木市郎が現金問屋から仕入れた医薬品は、この六種の医薬品が大部分である。)この使用量をカルテから集計した。

それによれば、カルテから集計した使用量に相当する右六種の医薬品の購入価格は七七八万〇六四九円である。これは被告が架空仕入と誤認(否認)した八〇七万二三七二円にほぼ一致する金額である。

原告は、右六種の医薬品以外にも若干の現金仕入を行っているから、原告の四三年三月期の確定申告は虚偽のものではない。

四四年三月期ないし四六年三月期の医薬品の使用量についても、カルテから集計した結果によれば、原告が東京衛材と三東薬品商会から現金で購入した医薬品の量とほぼ一致している。

原告の申告は虚偽ではない。

三  原告の病院は昭和三七年二月二一日に開院された比較的新しい精神病院である。新設の精神病院には、他の病院で厄介者扱いされる患者、すなわち、性格の悪い者、凶暴性のある者、あるいは、興奮性の高い者等が集まりやすい傾向があり、電気ショック等の治療の方法が使用されなくなったため、これらの者に対する治療方法としては投薬に頼らざるをえないこととなり、新設病院ほど投薬比率が高くなる傾向があるものである。加えて、昭和四四年五月まで院長をしていた桐渕医師は他の医師に比べて投薬治療を多用する傾向を有していた。

ところで、被告は、四三年三月期の原告病院の薬剤費比率を二一・五パーセントと推定したが、これは四四年三月期の医薬品仕入額のうち、被告が認めた医薬品仕入額の医療収入に対する割合である二一・五パーセントをそのまま四三年三月期にも適用したものであり、不当なものである。

被告は、四五年三月期の薬剤費比率を二四・八パーセント、四六年三月期のそれを二四パーセントと、四三年三月期及び四四年三月期のそれによりも高率の認定している。

しかし、原告病院は、開設当初は薬剤の使用が極めて多かったが、その後院長が代わったこともあって、年々減少に転じていたものである。

被告の薬剤費比率の認定は不当なものである。

(原告主張の医薬品の仕入金額に対する被告の反論)

一  原告は「原告の医薬品の仕入量は、原告がカルテを基に主要な医薬品(精神安定剤)の実際の使用量等を調査した結果によれば、被告が経費として認め医薬品の仕入金額を見合う購入量をはるかに上回っており、その上回る部分に相当する金額は、被告が架空仕入であるとした金額にほぼ一致する」旨主張する。

二  しかし、原告の医薬品の使用量を特定するうえで、カルテからその使用量を調査するという手法には、それ自体に問題があるうえ、その調査の信用性、正確性にも重大な疑問があるものである。すなわち、

1  医薬品の使用量から医薬品仕入の金額が正当なものかどうかを判断するためには、全医薬品について期首及び期末の在庫数量を把握し、医薬品の使用量と仕入数量との相互間の検証を行う等の検討が必要となるのであるが、それらの考慮を一切しないで、単に六種類の医薬品の使用量だけから、当期の仕入金額を推計している原告の計算には合理的な根拠がないものといわざるをえない。

2  原告病院のカルテに記載されてある医薬品の使用量にはその信憑性に大きな疑義がある。カルテを集計しても原告の真実の医薬品の使用量を算出することはできない。

3  のみならず、原告の不正計上の手段は、医薬品の仕入の際についてくるサンプルを通常の仕入価格で仕入れたように仮装したものが大部分であるのに、原告が主張している「実際使用量」にはサンプル分の数量が含まれている。サンプル分を排除しないで行った原告の医薬品仕入額の検討は無意味である。

4  原告主張の医薬品の現金仕入額は失当である。

(一) 四三年三月期については原告が算出に用いた単価は不当である。現金問屋の医薬品の販売価格は市価よりも相当に低いものであるから、原告主張の一般の薬品問屋からの購入価格の平均値に乗ずることにより算出された現金仕入額はかなり過大に計算さていることが明らかである。

(二) 四四年三月期ないし四六年三月期については、個々の医療品毎の対比をみれば、金額、数量ともに全く一致していない。

原告の主張が事実であるとすれば、合計額だけでなく、個々の医療品毎の東京衛材等から仕入れた額と使用量からみた現金仕入額とが一致していなければならないが、原告主張の個々の医薬品毎の東京衛材等から仕入た額と使用量からみた現金仕入額とは全く一致していない。

三  薬剤費比率については、患者の構成や変化や医師の治療方針及び仕入薬価の変遷によって大きな影響を受けるものである。従って、いちがいに原告病院の薬剤費比率が年々低下する傾向にあったと判断することはできない。

また、原告病院に勤務していた当時の三人の医師の投薬傾向を客観的価値によりば比較しなければ、どの医師の投薬傾向が高かったかは判断できない。

理由

一  原告の確定申告から審査請求に対する裁決に至るまでの経過については、当事者間に争いがない。

二  当裁判所は、被告のした青色申告承認取消処分と更正処分(審査裁決により取り消された部分を除く。過少申告加算税及び重加算税の賦課決定分を含む。)は正当であると判断する。

1  乙第一一ないし第一八号証、第三二号証によれば、四三年三月期に鈴木市郎(原告理事長)が現金問屋から仕入れたとする医薬品の仕入金額が架空の仕入金額であることは、被告主張のとおりであることが認められる。

2  乙第一一ないし第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇号証、第二一号証の一、二 第二二号証の一ないし三、第二三号証の一なしい七(但し、一ないし三は各一、二)、第二四号証の一ないし八、第二五号証の一、二、第二六号証の一ないし一〇、第二七号証の一ないし六、第二八ないし第三六号証、第四四号証によれば、鈴木市郎が東京衛材等から仕入れたとする医薬品の仕入金額が架空の仕入金額であることは、被告主張のとりおであることが認められる。

甲第一三号証、第三二号証(木村多一の証人調書)は乙第三六号証(木村多一に対する質問てん末書)に照らしてにわかに信用することができない。

3  乙第一七号証、第一八号証、第三二号証、第三三号証によれば、四三年三月期に原告が経費として計上した医薬品の仕入金額以外の経費(賄材料費等)が架空の経費であることは、被告主張のとおりであることが認められる。甲第四三号証(鈴木文雄の証明書)はにわかに信用することができない。

4  乙第一七号証、第一八号証、第四五号証の一ないし三、第四六なしい第四九号証によれば、原告が経費として計上した研修費(医師の招聘費用)についても、それが架空の経費であることは、被告主張のとおりであることが認められる。甲第二〇号証(佐藤賢の陳述調書)はそれだけではにわかに信用することができない。

5  以上の点に関する甲第三七号証、第四四号証、第四五号証(いずれも鈴木市郎の手帳)、原告代表鈴木市郎の供述はにわかに信用すことができない。

三  原告は、原告病院のカルテから集計した六種類の医薬品の使用量からその仕入金額を算出しているけれども、原告が提出した資料だけでもってはこれを認めることはできない(原告の仕入金額の算出方法には、被告の指摘した問題点があるから、これを解明する必要があるが、これについては原告から十分な反証がなされているものとみることはできない。)。

被告の、四三年三月期の医薬品の仕入に関する経費の推計は相当である。

四  原告の請求は理由がない、よって、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武田平次郎 裁判官 手島徹 裁判官渡部勇次は、転補のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官 武田平次郎)

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